中国に「GDP世界第2位」の看板が掲げられようとされていた2010年の末、十年ぶりに上海を訪れました。
前回同様、上海市人民政府民政局の朱金龍書記(中国殯葬協会副会長)のご好意により、お墓を介して中国社会の発展と変化の進度を体感して来ました。
案内頂いた霊園は上海市内より車で一時間半程の距離にある「濱海古園」。一九八〇年代半ばに開園し、圧倒されそうなほど広大な敷地の中に、現在約9万人の人々が眠っています。
「上海のお墓の今″を見て頂きましょう。様々な安らぎの姿をご案内します。」と霊園トップの趙小虎総経理に勧められ、十人乗りの電動カートに乗り込みました。
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【写真1】
芸術墓域の墓。独立した区画の中にヨーロッパ調の優美なお墓が並んでいます。緑豊な風景の中、さながら美術品が佇むかのよう。霊園には7人の設計士が在籍し、施主の要望を聞いて作品を創り出しています。
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【写真2】
やはり芸術墓域に建つ二世代4人分の墓。中国では「〜家之墓」といった家単位の墓石は建てません。一人につき一つ、もしくは夫婦で一つの墓石を建立しています。
写真最奥の墓石にのみお骨が埋葬されている現況です。手前に入る予定の方々はまだまだお元気だそうです。 この墓域で二世代生前墓を所有できるのは富裕層であることは間違いありません。
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【写真3】
こちらはいわば集合住宅型のお墓。「花壇葬」と紹介を受けました。一つの花壇に他人同士二十四人(組)が眠りに就いています。 お骨は土の中へ直接撒くようになります。
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【写真4】
樹葬と呼ばれている葬法です。一本の木を6組の夫婦が囲んでいました。形状は異なりますが、日本でも最近、自然回帰の思考や墓所墓石の継承に対する不安感、経済的な理由などから樹木葬が行われています。
実際に日本から自然葬派の団体がこの霊園を訪れてお墓のコンパクト化と中国政府の「先進的改革」を高く評価していたそうです。
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【写真5】
「愛心苑」と名付けられた墓域で、身寄りの無い老人の為のお墓です。公益性を優先しているので、格安の料金設定をとっています。極小の墓石サイズから「微型芝生墓地」と称しています。
海濱古園のホームページには「国家が呼びかけている墓地用地の節約、墓用資源の節約に対し、霊園が積極的に応じた墓所の一例」と謳われています。
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【写真6】
海葬記念苑内に整然と建ち並ぶ刻名碑です。上海市では海に遺骨を撒く海葬を特に奨励し、一九九一年より現在に至るまで2万体以上のお骨が海へ葬られています。民政局の下部組織である海葬サービス部が業務を担っています。
太古より中国人には「入土為安」=故郷の土に葬られてこそ安心して眠ることができる、との死生観が根強く残っています。
上海市と濱海古園は海葬を行った遺族の心理的安定を目的として、目に見える礼拝の対象を創造しました。
それが海葬された人の名を無料で彫刻するこの海葬記念碑です。碑の脇にはタッチパネル式のコンピューターが設置され、故人のデーターを入力しておけばお墓参りの際に愛する人と対面できる仕組みとしています。
又、毎年3月には海葬者遺族を招いての「公祭海葬典礼」が盛大に催されています。 総じて言えることは、葬送儀礼の空間に政府の権限が及べばこそ可能な葬送体系といえるでしょう。
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